初期の動画広告の種類

初期の動画広告は、「バナー広告型」と「テレビCM型」の2種類に分けられた。

(1)バナー広告型 ブラウザの一部の枠や別枠に動画を流す
(2)テレビCM型 動画用アプリで映像を流す(Youtube型)


(1)バナー広告型~サイト上の枠に動画表示

バナー広告型の動画広告は、従来の静止画広告のように、WEBサイト上の広告枠内に動画を流す形式。ダイヤルアップ回線などのナローバンド環境の時代から、サービスが提供されていた。

電通子会社

電通の子会社「サイバー・コミュニケーションズ(現:CARTA HOLDINGS)」が2001年8月から本格的に開始した「WEBSpot」は、サイト内に埋め込んだ広告枠に動画広告を流した。別のウィンドウを開いて配信することも可能だった。WEBSpotの開発元である「レッドライスメディウム」(東京都目黒区)の独自技術により、ナローバンドでも、従来より高い画質で再生できた。

博報堂系のDAC

博報堂の子会社「DAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)」も、バナー広告型に力を入れた。DACが2001年8月から開始したサービス「Net-CM」は、従来の横長のバナー広告の一部分に動画広告を配信できた。このほかにも、アドソサエティ・ジャパンやバリュークリックジャパンなどがバナー広告型のサービスを開始した。

ガーラやGMO子会社がメールで採用

こうしたバナー広告型は、電子メール媒体でも導入された。送られてきたメールをクリックすると、動画が表示される仕組みだった。特に、オプトインメール配信事業者が積極的だった。具体的には、独立系オンラインゲーム会社「ガーラ(Gala)」(東証スタンダード上場/創業者:菊川曉氏)、GMOの子会社「第一通信」(東京都豊島区、創業者:松原賢一郎氏)、同じくGMOの子会社「メールイン」(東京都渋谷区、創業者:西條晋一氏)などの会社が採用した。

呉英仁社長が開発したシステム

いずれも、電子メール向け動画広告配信システム「liveMail」を導入した。ベンチャー企業「アイ・ニューズ」(東京都千代田区、呉英仁社長)が開発・提供するサービスだった。メールインは2000年12月から開始した。

(2)テレビCM型~Youtube方式

動画広告のもう一つの種類が、「テレビCM型」だった。テレビCM型では、動画コンテンツ(番組)内に広告を挿入する。テレビと同じ形態にすることで、利用者に広告を違和感なく見せることができるのが特徴だ。後に国民全般に普及することになるYoutubeも、この形態を採用した。バナー広告型に比べると、ブロードバンド向けのサービスだった。

三菱商事の「CMナビ」

三菱商事と、JVC(日本ビクター)のネット通販子会社「ベネフィットオンライン」(東京都港区)が2001年5月に開始した配信システム「CMナビ」では、自前の動画コンテンツが始まる前に、動画広告を流す仕組みだった。

ゴルフダイジェストが採用

ゴルフ専門サイトを運営する「ゴルフダイジェスト・オンライン」(東証プライム上場、創業者:石坂信也氏)は、プロゴルファーによるアドバイスを動画で配信するコーナーで、動画広告を導入した。このほか、ダブルクリックも、動画コンテンツの冒頭に動画広告を挿入するサービスを提供した。

ソニー子会社「インタービジョン」の「PaSaTa」

さらに、テレビCMの手法に、ネット特有の付加価値を組み合わせた広告も登場した。インタービジョン(現:フロンテッジ)の「PaSaTa」だ。インタービジョンは当時、ソニーの100%子会社だった。後に電通が資本参加した。

ターゲティング導入

PaSaTaでは、性別や年齢、趣味、職業など個人情報を基に、適切な動画広告を配信するターゲティングの仕組みを備えた。例えば、広告主がビール会社の場合、「20歳以上でお酒好きな人にだけ配信」といった指定ができた。さらに、広告を動画コンテンツ内の任意の場所に挿入することが可能となった。

「エー・アイ・アイ」加入者で実験

インタービジョンは、2001年8月1日から約2カ月間、PaSaTaの試験配信を実施した。ケーブルテレビ(CATV)のインターネット向けのコンテンツ配信事業を手がける「エー・アイ・アイ」(AII、東京都品川区)の加入者から選んだ5000人を対象に行った。

広告効果を検証

エー・アイ・アイは、ソニー、東急電鉄、トヨタ自動車の3社によって設立された会社だった。実験には、約50社の広告主と約60社のコンテンツ保有者(番組提供者)が参加した。システムの動作や広告効果を検証した。



出稿料金は、画像広告の数倍

ネット広告会社は、動画広告の効果を明確にする指標作りに取り組んだ。サイバー・コミュニケーションズ、DAC、ダブルクリックの3社は、共同でネット広告全体の認知効果の指標を策定する事業を2001年7月から開始した。

効果を測定

動画広告の出稿料金(費用)は、バナー広告(画像広告)が1インプレッション当たり1円前後なのに対し、その数倍以上になると予想された。このため、広告の効果を測定する必要があった。

相次ぐベンチャー

ネット広告会社やWEBサイト運営者などの参入をにらみ、動画広告配信技術やシステムを提供するネットベンチャー(スタートアップ企業)も相次いで設立された。上記の「アイ・ニューズ」もその一つだった。

女性向けサイト「@woman(アットウーマン)」も

このほかにも、女性向けウェブサイト「@woman(アットウーマン)」を運営する「ジービーネクサイト」(東京都千代田区、渡部良彦代表)が2001年の4月からシステム提供を開始した。「@woman(アットウーマン)」は人気のあるサイトだった。女性をターゲットにした総合的なポータルサイトだった。「woman.co.jp」というドメインを使っていた。2002年にアクシブドットコムに買収された。しかし、オワコンとなり、いつの間にかサイトも消えていた。


出演者や音楽家の著作権が課題に

動画広告では、著作権が大きな課題となった。当初、動画広告では、テレビCMを流用するケースが多かった。だが、出演者や音楽家(ミュージシャン)などの権利保有者から許可が得られず、ネットに流用できる素材が多くなかった。

電通と博報堂が共同でシステム開発

こうした問題を解決するために、電通と博報堂は共同で、テレビCMの著作権を管理するシステム「ADmission」を開発した。

「媒体の種類」「放送期間」「地域」などの契約内容

ADmissionでは、各権利保有者が広告主と交わした契約内容をデータベース化した。「媒体の種類」「放送期間」「地域」などの契約情報である。そのデータに基づいて、対象のCMがネットに配信可能かをチェックする。権利関係を調べやすくすることで、テレビCMのネットへの活用促進を図った。