初期のネット動画広告の種類

21世紀初頭の黎明期のネット動画広告は、「バナー広告型」と「テレビCM型」の2種類に分けられた。2種類の違いは以下の通り。

種類 内容 結果
バナー広告型 ブラウザの一部の枠や別枠に動画を流す 当初は主流だったが、消滅した。
テレビCM型 Youtubeなどの動画用アプリで映像を流す 圧倒的な主流になった

(1)バナー広告型~サイト上の枠に動画表示

バナー広告型の動画広告は、従来の静止画広告のように、WEBサイト上の広告枠内に動画を流す形式だ。つまり、従来は静止画像だったバナー広告を動画化したものである。インターネット初期に使われていた「電話回線(ダイヤルアップ回線)」などの低速通信(ナローバンド環境)の時代から、サービスが提供されていた。

電通子会社

電通の子会社「サイバー・コミュニケーションズ」(現:CARTA HOLDINGS/カルタホールディングス)が2001年8月から本格的に開始したサービス「WEBSpot(ウェブスポット)」は、サイト内に埋め込んだ広告枠に動画広告を流した。別のウィンドウを開いて配信することも可能だった。

サイバー・コミュニケーションズとは
サイバー・コミュニケーションズ

上記のサイバー・コミュニケーションズとは、1996年に電通とソフトバンクの共同出資によって設立された会社である。藤田晋氏率いる「サイバーエージェント」(広告代理店)ではない。2000年に上場した。スナップアップ投資顧問によると、上場時点ではヤフージャパンや朝日新聞、インプレスなどマスコミを中心に約150の有力サイトを主な広告の掲載媒体として抱えていた。市場シェアは2割強に達していた。ソフトバンクが出資していることで、当時ガリバー的な人気サイトだったヤフーを顧客にできたのが大きかった。

消滅

2009年に電通の完全子会社化となり、上場廃止。2022年1月、同じく電通子会社の「CARTA HOLDINGS」に吸収合併され、会社として消滅した。

レッドライス

サイバー・コミュニケーションズの動画広告配信サービス「WEBSpot」では、「レッドライスメディウム」(東京都目黒区)というスタートアップ企業の独自技術を採用した。この技術があれば、ナローバンド環境であっても、従来より高い画質で再生できると評判だった。

レッドライス

レッドライスメディウムは2000年5月に設立された。創業者は渡部裕子氏。2008年に「レッドライス」に社名変更された。

初代社長はホリエモン

レッドライスは2004年2月、堀江貴文(ホリエモン)氏率いるライブドアなどと共同出資により、映画配信会社「株式会社ブロードバンドピクチャーズ」を設立した。 ブロードバンドタワーも出資。出資比率は、ライブドア51%、ブロードバンドタワー39%、レッドライス10%。初代社長には堀江氏が就任した。東京地検に摘発される前のころだ。

ネットシネマ

このブロードバンドピクチャーズは、「ネットシネマ(NET CINEMA)」というサービス名で、動画配信ビジネスを始めた。 オリジナルのドラマ制作に乗り出した。後の「Netflix(ネットフリックス)」に似た業態である。 結局、普及せずに消滅した。

公式サイトも消えた

レッドライスは「redrice.co.jp」というドメインで公式ホームページ(コーポレートサイト)を運営していたが、消滅した。インターネットのアーカイブ(ウェイバック・マシーン)では、直近では2012年の分まで残っている。それによると、2012年時点では資本金は1億円だった。求人サイトの古い求人によると、資本金は2億5300円となっており、増資が行われたようだ。「デパートメント」という通販サイトも運営していたようだが、このサイトも消えた。

博報堂系のDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)

一方、博報堂の子会社「DAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)」も、バナー広告型に力を入れた。DACが2001年8月から開始したサービス「Net-CM」は、従来の横長のバナー広告の一部分に、動画広告を配信できるのが特徴とされた。

「反電通」
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム

このDACという会社は、1996年、電通以外の有力な広告代理店が共同で設立した。要するに「反電通」のグループある。出資母体は、博報堂のほか、旭通信社(現:ADK)、第一企画(現:ADK)、読売広告社、アイアンドエス(I&S)、徳間書店、デジタルガレージである。このうちデジタルガレージとは、天才コンピューター技術者の伊藤穰一氏(1966年生まれ)が設立した会社である。後に「カカクコム」などの大株主となった。当初、主な広告の掲載サイトは検索エンジンの「インフォシーク・ジャパン」「アスキー」など。

その他の参入企業

このほかにも、「バリュークリックジャパン」や香港系「アドソサエティ・ジャパン」などが2001年、バナー型の動画広告サービスを開始した。

バリュークリック

このうちバリュークリックジャパンは、藤田晋氏率いる「サイバーエージェント」のように、クリック保証型の広告を武器に成長した。ただし、個人ではなく法人サイト向けの広告に特化しているのが特徴だった。2000年に上場した。後にライブドアに買収されたが、粉飾決算が発覚し、2006年に上場廃止になり、事実上消滅した。

香港PCCW・東急連合は即撤退

一方、アドソサエティ・ジャパンは、香港「PCCW」(旧パシフィック・センチュリー・サイバーワークス)と東急エージェンシーが共同で設立した。Flash(フラッシュ)というソフトを使った動画広告を手掛けたが、わずか半年足らずで業務を停止した。Flashとは、21世紀初頭に流行した動画表現のソフトである。米アドビが提供していた。ネットで動画が珍しかった時代に重宝されたが、Youtubeなどの普及に伴い、無用になって捨てられた。

ガーラやGMO子会社がメールで採用

こうしたバナー広告型の動画広告は、電子メール媒体でも導入された。 送られてきたメールをクリックすると、動画が表示される仕組みだった。 しかし、実際はバナーというよりはブラウザである。 とりわけオプトインメール配信事業者が、この方式に積極的だった。具体的には、例えば以下の企業が採用した。

  • 独立系オンラインゲーム会社「ガーラ(Gala)」(東証スタンダード上場/創業者:菊川曉氏)
  • GMOの子会社「第一通信」(東京都豊島区、創業者:松原賢一郎氏)
  • GMOの子会社「メールイン」(東京都渋谷区、創業者:西條晋一氏)
呉英仁社長が開発したシステム

上記の採用企業は、いずれも「liveMail」と呼ばれる電子メール向け動画広告配信システムを導入した。このシステムは、ベンチャー企業「アイ・ニューズ」(東京都千代田区、呉英仁社長)が開発したサービスだった。2000年12月からサービス提供が始まった。

(2)テレビCM型~Youtube方式

動画広告のもう一つの種類が、「テレビCM型」だった。テレビCM型では、動画コンテンツ(番組)内に広告を挿入する。テレビと同じ形態にすることで、利用者に広告を違和感なく見せることができるのが特徴だ。要するに「ストリーミング」である。後に全世界に普及することになるYoutube(ユーチューブ)も、この形態を採用した。バナー広告型に比べると、ブロードバンド向けのサービスだった。

Youtube

三菱商事の「CMナビ」

三菱商事と、JVC(日本ビクター)のネット通販子会社「ベネフィットオンライン」(東京都港区)が2001年5月に開始した配信システム「CMナビ」では、自前の動画コンテンツが始まる前に、動画広告を流す仕組みだった。

三菱商事

ゴルフダイジェストが採用

ゴルフ専門サイトを運営する「ゴルフダイジェスト・オンライン」(東証プライム上場、創業者:石坂信也氏)は、プロゴルファーによるアドバイスを動画で配信するコーナーで、動画広告を導入した。このほか、ダブルクリックも、動画コンテンツの冒頭に動画広告を挿入するサービスを提供した。

ソニー子会社「フロンテッジ」の「PaSaTa」

さらに、テレビCMの手法に、ネット特有の付加価値を組み合わせた広告も登場した。インタービジョン(現:フロンテッジ)の「PaSaTa(パサタ)」だ。インタービジョンは1997年にソニーに買収されており、当時はソニーの100%子会社だった。2002年に電通が40%資本参加し、社名が「フロンテッジ」に変更された。

フロンテッジ

ターゲティング導入

PaSaTaでは、性別や年齢、趣味、職業など個人情報を基に、適切な動画広告を配信するターゲティングの仕組みを備えた。例えば、広告主がビール会社の場合、「20歳以上でお酒好きな人にだけ配信」といった指定ができた。さらに、広告を動画コンテンツ内の任意の場所に挿入することが可能となった。

「エー・アイ・アイ」加入者で実験

インタービジョンは、2001年8月1日から約2カ月間、PaSaTaの試験配信を実施した。ケーブルテレビ(CATV)のインターネット向けのコンテンツ配信事業を手がける「エー・アイ・アイ」(AII、東京都品川区)の加入者から選んだ5000人を対象に行った。

広告効果を検証

エー・アイ・アイは、ソニー、東急電鉄、トヨタ自動車の3社によって設立された会社だった。実験には、約50社の広告主と約60社のコンテンツ保有者(番組提供者)が参加した。システムの動作や広告効果を検証した。



出稿料金は、画像広告の数倍

ネット広告業界は、動画広告の効果を明確にする指標作りに取り組んだ。サイバー・コミュニケーションズ、DAC、ダブルクリックの3社は、共同でネット広告全体の認知効果の指標を策定する事業を2001年7月から開始した。

効果を測定

動画広告の出稿料金(費用)は、バナー広告(画像広告)が1インプレッション当たり1円前後なのに対し、その数倍以上になると予想された。このため、広告の効果を測定する必要があった。

相次ぐベンチャー

ネット広告会社やWEBサイト運営者などの参入をにらみ、動画広告配信技術やシステムを提供するネットベンチャー(スタートアップ企業)も相次いで設立された。上記の「アイ・ニューズ」もその一つだった。

女性向けサイト「@woman(アットウーマン)」も

このほかにも、女性向けウェブサイト「@woman(アットウーマン)」を運営する「ジービーネクサイト」(東京都千代田区、渡部良彦代表)が2001年の4月からシステム提供を開始した。「@woman(アットウーマン)」は女性をターゲットにした総合的なポータルサイト。当初は、それなりに人気のあるサイトだった。「woman.co.jp」というドメインを使っていた。

アットウーマン

サイバーエージェントに買収され、最後は「アメブロ」になって消滅

「@woman(アットウーマン)」は2002年にアクシブドットコムに買収された。 2005年には、ネット広告代理店のサイバーエージェントに買い取られた。 しかし、人気が低下し、だんだんオワコンとなった。 2008年7月1日になると、サイトが閉鎖される始末だった。 サイバーエージェントの「アメブロ」に統合された。 つまり、一世を風靡した有力サイトが、単なるブログのページの一つに成り下がってしまったのだ。 これは悲劇と言うほかない。 最終的には、ブランド自体も消滅した。 教訓としては、WEBサイトやWEBメディアではお金を稼げる人はいない、ということだ。


出演者や音楽家の著作権が課題に

動画広告では、著作権が大きな課題となった。当初、動画広告では、テレビCMを流用するケースが多かった。だが、出演者や音楽家(ミュージシャン)などの権利保有者から許可が得られず、ネットに流用できる素材が少なかった。

電通と博報堂が共同でシステム開発

こうした問題を解決するために、電通と博報堂の2大大手は共同で、テレビCMの著作権を管理するシステム「ADmission(アドミッション)」を開発した。

「媒体の種類」「放送期間」「地域」などの契約内容

ADmissionでは、各権利保有者が広告主と交わした契約内容をデータベース化した。「媒体の種類」「放送期間」「地域」などの契約情報である。そのデータに基づいて、対象のCMがネットに配信可能かをチェックする。権利関係を調べやすくすることで、テレビCMのネットへの活用促進を図った。


【2010年代】アドテク企業の伸長

2010年代に入ると、日本の動画広告業界では、アドテク企業の勢いが増した。スナップアップ投資顧問によると、かつて金融業界に起きた「人間から機械へ」といった合理化が一段と進んだ。人間の購買行動すべてを分析して、これに適時対応するサービスが相次いで開発された。

フリークアウト

フリークアウトのロゴ

例えば2010年に設立されたフリークアウトは、広告主がネット上に広告を掲載する際の方法を、従来の先物取引からRTB(リアル・タイム・ビッディング)へ変えることを提案した。RTBでは、広告を見てほしい対象者の属性や入札の上限額を決めておき、広告主の要望に合うユーザーが見つかったら瞬時に入札が行われ、最高価格を提示した広告主の広告が配信される仕組みだ。フリークアウトは2014年上場した。しかし、その後は鳴かず飛ばずで、上場ゴール企業と化した。

ユーチューバー事務所「ウーム」を買収

UUUM(ウーム)のロゴ

フリークアウトは2023年8月、Youtube(ユーチューブ)の動画配信者(ユーチューバー)の代理人事務所である「UUUM(ウーム)」を買収した。 UUUMは、ヒカキンらが所属していることで有名。買収総額は約100億円。買収後、さらに株価は低空飛行状態に陥った。

ヒカキンの顔